労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準


(平成13年4月6日公表)


目   次
第1 趣 旨
第2 適用の範囲
第3 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置



第1 趣旨

  労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである。
 しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用に伴い、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。
 こうした中で、中央労働基準審議会においても平成12年11月30日に「時間外・休日・深夜労働の割増賃金を含めた賃金を全額支払うなど労働基準法の規定に違反しないようにするため、使用者が始業、終業時刻を把握し、労働時間を管理することを同法が当然の前提としていることから、この前提を改めて明確にし、始業、終業時刻の把握に関して、事業主が講ずべき措置を明らかにした上で適切な指導を行うなど、現行法の履行を確保する観点から所要の措置を講ずることが適当である。」との建議がなされたところである。
 このため、本基準において、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにすることにより、労働時間の適切な管理の促進を図り、もって労働基準法の遵守に資するものとする。

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第2 適用の範囲

  本基準の対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定の全部又は一部が適用される全ての事業場とすること。
  また、本基準に基づき使用者(使用者から労働時間を管理する権限の委譲を受けた者を含む。以下同じ。)が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、いわゆる管理監督者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除くすべての者とすること。
  なお、本基準の適用から除外する労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。

対象事業場
 対象となる事業場は、
 労働基準法のうち労働時間に係る規定(労働基準法第4章)が適用されるすべての事業場
です。
対象労働者
 対象となる労働者は、
 いわゆる管理・監督者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除くすべての労働者
です。
注 いわゆる管理・監督者及びみなし労働時間制が適用される労働者については、本基準の対象とならないのみであり、深夜労働や休日労働に関する事項の適用はあります(一部例外あり。)。

  1. 管理・監督者とは、一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、役職名にとらわれず職務の内容等から実体的に判断されます。
  2. みなし労働時間制とは、次のものをいいます。
    • 事業場外で労働する者であって、労働時間の算定が困難な者(労働基準法第38条の2)
    • 専門業務型裁量労働制が適用される者(労働基準法第38条の3)
    • 企画業務型裁量労働制が適用される者(労働基準法第38条の4)
  3. 本基準が適用されない労働者(管理・監督者及びみなし労働時間性が適用される労働者)についても、健康確保を図る必要がありますので、使用者は過重な長時間労働を行わないようにするなど、適正な労働時間管理を行う責務があります。

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第3 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

  1. 始業・終業時刻の確認及び記録
    使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
     使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。
     労働時間の適正な把握を行うためには、単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があります。
  2. 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
    使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
     ア 使用者が、自ら現諾することにより確認し、記録すること。
     イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
     始業時刻や終業時刻を確認・記録する方法として、原則的な方法を示したものです。
    アについて
       「自ら現認する」とは、使用者自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業時刻や終業時刻を確認することです。
     なお、確認した始業時刻や終業時刻については、該当労働者からも確認することが望ましいものです。
    イについて
       タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基本情報とし、必要に応じて、たとえば使用者の残業命令書及びこれに対する報告書など、使用者が労働者の労働時間を算出するために有している記録とを突合することにより確認し、記録してください。
     なお、タイムカード、ICカード等には、IDカード、パソコン入力等が含まれます。
  3. 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
    上記2.の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は、次の措置を講ずること。
     ア 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
     イ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
     ウ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
     自己申告による労働時間の把握については、曖昧な労働時間管理となりがちであるため、やむを得ず、自己申告制により始業時刻や終業時刻を把握する場合に講ずべき措置を明らかにしたものです。
    アについて
       労働者に対して説明すべき事項としては、基準で示したもののほか、自己申告制の具体的内容、適正な自己申告を行ったことにより不利益な取り扱いが行われることがないこと、などがあります。
    イについて
       使用者は自己申告制により労働時間が適正に把握されているか否かについて定期的に実態調査を行い、確認することが望ましいものです。
     特に自己申告制が適用されている労働者や労働組合等から労働時間の把握が適正に行われていない旨の指摘がなされた場合などには、このような実態調査を行ってください。
    ウについて
       労働時間の適正な把握を阻害する措置としては、基準で示したもののほか、職場単位ごとの割増賃金に係る予算枠や時間外労働の目安時間が設定されている場合において、その時間を超える時間外労働を行った際に賞与を減額するなど不利益な取り扱いをしているものがあります。
  4. 労働時間の記録に関する書類の保存
    労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存すること。
    1. 労働基準法第109条においては、「その他労働関係に関する重要な書類」について保存義務を課していますが、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類もこれに該当し、3年間保存しなければならないことを明らかにしたものです。
      具体的には、使用者が自ら始業・終業時刻を記録したもの、タイムカード等の記録、残業命令書及びその報告書、労働者が自ら労働時間を記録した報告書などが該当します。
      なお、保存期間である3年間の起算点は、それらの書類ごとに最後の記載がなされた日となります。
    2. また、労働基準法第108条は、使用者は賃金台帳を作成しなければならないこととしていますが、その記載事項としては、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、早出残業時間数、深夜労働時間数が掲げられています。
      このため、賃金台帳にも労働時間の記録を記載しなければなりません。
  5. 労働時間を管理する者の職務
    事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働
    時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。
     労務担当役員、労務部長、総務部長等労務管理を行う部署の責任者は、労働時間が適正に把握されているか、過重な長時間労働が行われていないか、労働時間管理上の問題点があればどのような措置を講ずべきかなどについて把握、検討すべきであることを明らかにしたものです。
  6. 労働時間短縮推進委員会等の活用
    事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間短縮推進委員会等の労使協議組織を活用
    し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。
     この措置を講ずる必要がある場合としては、次のような状況が認められる場合があります。
    1. 自己申告制により労働時間の管理が行われている場合
    2. 一つの事業場において複数の労働時間制度を採用しており、これに対応した労働時間の把握方法がそれぞれ定められている場合
     また、労働時間短縮推進委員会、安全・衛生委員会等の労使協議組織がない場合には、新たに労使協議組織を設けることを検討すべきでしょう。

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社会保険労務士・行政書士「田中靖啓事務所」  E-mail: t-yasuhiro-1944@mbk.nifty.com
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